日々の活動

校外学習「アントレプレナーシップ研修(能登)」2日目

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 2025年7月29日~30日の2日間、アントレプレナーシップ講座の一環として石川県七尾市と輪島市にて、アントレプレナーシップ研修を実施しました。この研修の目的は、能登半島地震で大きな被害を受けた地域を実際に訪れ、復興に向けたプランを自らの視点で考えることです。起業家(アントレプレナー)のような発想で、地域課題に向き合う力を養うことを目指して実施しました。

 研修2日目の7月30日は、輪島市へと移動しました。道中の車窓から見える風景には、崩れた山肌や倒壊した建物が数多く残されており、七尾市とはまた異なる被害の様子に、生徒たちは改めて震災の深刻さを感じました。 

 輪島市に到着後、仮設住宅の近くで私たちを待っていてくださったのは、「クエスト輪島」という活動を行っている中村さん。なんと彼は、現役の輪島高校の高校生です。被災地の今を自らの言葉で伝える語り部として、地域の現状を多くの人々に発信する活動をしています。
 まずは中村さんの案内で、市内の被害状況を視察しました。倒壊した建物、立ち入り禁止となった地域、仮設住宅の風景など、一つひとつの説明に生徒たちは真剣に耳を傾けていました。中村さんが通っている輪島高校も、震災によって大きな被害を受けた学校の一つです。なんと突然の訪問にもかかわらず、校内の見学を許可していただけることにました。しかも、案内してくださったのは輪島高校の校長先生ご本人です。教室や廊下、屋上、体育館まで、被害を受けた現場を直接見ることができ、生徒たちは非常に貴重な経験をすることができました。 

 お話の中で、本校の伊藤憲人校長と輪島高校の校長先生は、以前SSH(スーパーサイエンスハイスクール)の仕事でご一緒されたご縁があったこともわかり、思いがけない再会に、現場はあたたかな空気に包まれました。
 輪島高校の校舎内を見学したあと、生徒たちは校長室にも案内していただきました。室内には大きな地図が貼られており、そこには色分けされたり、シールや付箋が貼られていました。それは、輪島高校の生徒一人ひとりの自宅の位置を示すものでした。校長先生は、地震発生直後から、電気も暖房も使えない中、この校長室で寒さに耐えながら、安否確認や支援の準備などの対応に追われていたと語ってくださいました。
「1月1日で、生徒たちがいなくて本当に良かった。みんな守られていた」と穏やかな表情で話される姿に、校長先生の生徒への深い思いがにじみ出ていました。先生方がどれほどの覚悟で震災対応にあたっていたのかが、言葉の端々から伝わってきました。

 その後、中村さんの案内で、かつて輪島の名所の一つであった「朝市通り」も訪れました。かつて多くの観光客や地元の人々で賑わっていたこの場所は、今や建物のほとんどが倒壊し、わずかに残った建物も無残な姿をさらしていました。広がる更地には、雑草が生い茂っており、当時の賑わいを知らない私たちでさえ胸が詰まる思いがしました。中村さんは、「このあたりには友達の家もたくさんあった」と静かに語ってくれました。何気ない日常が一瞬で失われた場所に立ち、そこで暮らす同世代の高校生の言葉を聞くことで、生徒たちは“被災”という言葉の重みを現実のものとして感じ取っていました。しかし、中村さんのように、中高生がたくましく地域のために活動している姿にも大きく心が揺さぶられたと思います。

 このアントレプレナーシップ研修で、生徒たちは、地域に生きる人々の強さとしなやかさ、そして「動き続けること」の大切さを学びました。アントレプレナーとは、特別な人のことではありません。誰もがなれる「何かを起こす人」です。
 今回の研修を通して、被災地の現実と向き合い、人との出会いや学びを重ねる中で、勇気を持って自分のアイデアを形にしようとする生徒が一人でも生まれてくれたら――それがこの研修の何よりの成果だと感じています。